Artist x(アーティストバイ) Vol.4 chappy-石部奈々美

【作家であり、アートユニットであり、運営者であり。自分が何者かを常に更新し続ける。】

 

今回のArtist x(アーティストバイ)は、ブラッシュワークをベースに身近にある資材を多岐に渡り融合させ、剥がす/重ねる/貼ることを駆使し画面を構成、独自の手法で絵画表現を続けるchappy-石部奈々美さんです。

現在のスタイルに至った経緯や、パートナーと運営するギャラリーのお話を掘り下げて伺っていきます。

Product Designer、以下PD

 

亀戸アートセンター(KAC)

 


「アーティスト」と「場を運営する人」、自分の中での棲み分け。

PD「もうね、chappyさんとはFAVORRICでご一緒歴が長いので何者か存じ上げているものの、こんな感じでかしこまって深掘りすることはなかなか無い機会なので嬉しいです。簡単に自己紹介を。」

chappy「亀戸アートセンターの運営しているchappyです。絵描きです。」

PD「ありがとうございます。お久しぶりですね〜。」

chappy「確かに、ちょっと間が空いていましたね。」

PD「今回はアーティストとしてのchappyさんと亀戸アートセンター(以下:亀戸)を運営するchappyさんという双方のアイデンティティや心境について伺いたいんですが、その辺て比較的パキッと分けて整理しています?」

chappy「実は全く分けていないんですよ。全部一緒で同一線上にあって。逆に私は棲み分けたり器用なことができないタイプで。おそらく、自分=作品そのものみたいな捉え方をしているかもしれないですね。」

PD「大きなchappyさんと言う丸の中に、ギャラリーオーナーや運営者の部分もあり、アーティストの部分もあり、いい意味で全く仕切りがなく一緒くたな感じ?に見えています。私たちの仕事とかアート界隈に身を置く人って、あまりにもオンオフがないじゃないですか?教養とか蓄えになるものに対して適切な役割や名前が付けられないって言うか。」

chappy「私も結局そんな感じです。新しいアーティストや作品に出会うためとは言え、自分の興味のボリュームも同じぐらいだなって。」

PD「率直に、ギャラリー運営とアーティスト活動とのバランス、今現在どちらが大きいですか?」 

chappy「圧倒的にギャラリーの方ですね。日々、ギャラリー運営が軸になっているので立て続けにスケジュールがある状態というか…自転車操業的な感じですね。自分の制作をするにも、まずは運営を成り立たせないといけないので。」

PD「確かに、最近はchappyさんが運営に力を注いで全betしているのよく分かります()

chappy「ただ、今はアーティスト活動に時間を割くよりも運営に費やす時間が大きくてもなぜか嫌じゃないんですよね〜。それは、企画をご一緒するアーティストたちの作品に触れるとか、自分も一緒に何か作ってるぞ!という側面で昇華できているからかも知れないです。」

 

視点を切り替える瞬間はあるか。

大きな画面とダイナミックなブラッシュワーク

 


PD「運営がほぼ生活の割合を占める中で、chappyさんはどうやってアーティストとして時間を捻出していますか?さあ、今から描こう!って時間を決めて制作するってよりは、空いてる時間に少しずつ進めてるイメージですが…。」

chappy「そうですねえ。FAVORRICさんに参加した時期は、割と時間を決めて制作するタイプの手法だったんですけど、その後の傾向として取り掛かる時間をぶつ切りにすると見通しが立たなくなっちゃうと言うか…?ずっと向かい合っていないと手が進まないスタイルに切り替わったのもありまして。だから正直、まとまった時間を作るために気持ちの部分も含めてなかなかできてないんですよね()

PD「前回chappyさんにお会いした時には、制作をしては少し時間を置いてみて、もう一回俯瞰して見て、また進めて…と言うような感じで、反復した制作スタイルって話を伺っていたので、そこからもまた少し変化して現在のスタイルになった感じですか?」

chappy「そう、亀戸のバックヤードで制作するのも一時期トライしてみようかと思ったけど、結局、片手間になり集中が難しくて…。それこそ展示中のアーティストの作品を汚したりしても大変だし。」

PD「なるほど。お家でも制作場所みたいなのって分けて作っています?」

制作最中、いつだって手の届く範囲に道具がある

 


chappy「一応あるはあるんですけど。私の制作って手がすぐ汚れちゃうんで、水場が近くに欲しくて。だから結局ダイニングテーブルで制作しちゃいますね。もう少し日常と制作が一緒になるような?手法を考えていきたいとは常々思ってはいます()

PD「本当にそれが理想ですね〜。ギャラリーオープンが固定である以上は、時間を意識して調整たり捻出していかないと、あっという間に1日終わっちゃいますもんね。」

chappy「今はたまたま運営にボリュームが傾いてるけれど、自分の活動を規模を小さくしていくってよりは、パワーダウンさせずにやりたいことに変わりはないんです。まあ、私と石部()の場合、そこも含めて表現の一つなんですけどね。やること全てが一つの作品とまでは言わないまでも、いずれそうなればいいかなって思っていますし、物理的に形として残すことが必ずしも作品というワケでもなく…。その辺は特にこだわっていないですね。」

PD「うんうん。chappyさんと石部さんて、世の中のアーティストの中でもかなり特殊でイレギュラー活動だと思うので、カッチリ線引きはしていないだろうなって。アーティスト兼ギャラリーオーナーという時点で、キュレーション部分も一種のインスタレーションの方法だと思っています。あれ、今ってギャラリー定休日って水曜日でしたっけ?ちゃんと休めています?」

chappy「実は最近定休日設けなくなって。ほぼ毎日というか…?一応、展示と展示の間を少し空けているんですが、作品の入れ替えや購入済みのものをお客さまに発送したり。結局運営業務の延長ですね。そこでしっかり休んで、一週間で展示入れ替えて。でも、16時〜OPENなんで、その前に石部と二人で打ち合わせしたり、知り合いの展示を見に行ったり結構やれることはありますね。」

PD「こればかりは隙間時間でどうタイムテーブルを作れるか?が勝負ですよね!私は一週間に一回は休まないとダメな人なんで、単純にすごいなって思っちゃいました!」

chappy「まあね、好きなことだから続けられているところはありますね〜。それよりも私たちの課題としてSNSがあります。もう、発信することの難しさとかは年々痛感しています…。発信の方法やタイミングとか?最近では事あるごとに仕様が変わるもんで、休みの日に情報を得て仕組みとかいろいろ勉強しよう!と思っても、億劫になっちゃって() 結局、素材ばかり写真フォルダに溜まっていって、投稿するところまで辿り着かない…。」

PD「うわあ、同感過ぎて() 日々変わりゆくSNSの情報収集ですよね…。写真なんてそのまま投稿もできるけど、ギャラリーとなるとアーティスト詳細、会期、在廊予定…etc。必要事項が多いし、なかなかカロリー高めですもんね。全てのSNSを回転させること、これが集客に直結すると思うとちゃんと勉強しなきゃなとは思うものの…。」

chappy「亀戸のSNS周りは、今ほぼ私一人で回しているというか広報部分を担っちゃっているところがあります() 二人で運営をしていると、結局業務が分担制になってしまう。これって、どちらかが休んだりとかすると成り立たなくなってしまう危険性があって。だから運営に関する何もかもをお互いが一通り把握してできるようにしておかないといけないよね、っていうのが直近のTOPICです。」

PD「それは往々にしてありますね。誰かしかできないタスクがあると、何かあっても引き継げないですもんね。」

 

ブラッシュワークや、コラージュで剥がすという方法にたどり着いたきっかけ。

1周年記念のFAVORRICポップアップストアより

 

PD「制作のプロセスについても掘り下げていきますね。まずchappyさんにご提供いただいている作品5点、全てブラッシュワークだと思うんですけど、剥がす描く更に刷毛で手を加えるみたいな技法に辿り着いた経緯を教えてください。確かこの流れは、2016年に、亀戸アートセンターの前に運営していたギャラリーでの個展の頃から始まっているんですよね。」

chappy「そうですね。ただ、筆や刷毛を使い始めたきっかけでいうと、大学の頃だったと思います。私は元々グラフィックデザイン専攻だったので絵はそんなに描いてきてなかったんですけど、実は一社だけ就活したんですよ。その時に描いた絵をアートディレクターに見せたら、『あれ?いいじゃん?』って軽く褒められて()

PD「いや、キッカケって案外そう言うところにあるんですよね()

chappy「それでその辺にある文房具で描こうかな〜とたまたま手に取ったのが筆ペンだったんですよ。そうしたら筆ペンとの相性がまあ良くって、自分でも描きやすいなって思って。そこからはなんかそういう筆系のもので描くようになりました。」

with ink 2

 

chappy「本当、大学入る前のデッサンぐらいですかね、ちゃんと何か物を描くっていう期間は。その後、芸祭みたいなのでちょろっと。でもその時もやっぱりコラージュとかが多かった気がするけど、全部グラフィック寄りな感じでしたね。当時、ちょうど変換期だったというか、技術的な手段がいろいろ増えた時期で。そういった意味では手法も人によって違うし、だんだんと分かれていく印象でしたね。デジタルとアナログの大きな分かれ目。」

PD「確かにそうでしたよね、私もまだ高校生で地元にいた頃なんか、IllustratorPhotoshopもなくて。パソコンの中に入っているお絵描きツールみたいなのしかないからそれで遊んでいましたね。あれが最初のわたしのデジタルだったのかなと思ったり。私よりも上の世代の人たちはワードとかエクセル上で無理やり組み合わせて絵を描くみたいな?今思うとめちゃくちゃテクい。NEW AGE感ありましたね。chappyさんがおっしゃる通り、デジタルとアナログの分かれ目と言うか…?その時期を経験した人たちって、スキルだけではなくて本質として強いなって思っています。」

chappy「あぁ、すごくわかります。現状あるものをなんとか駆使しながら他の人とは違う表現を模索したりね。」

PD「それこそ亀戸で展示をされるアーティストは超デジタル世代が集まる印象で、それがとても面白い。私からしたらどうやって作っているんだろう?と思うことが多々あるんですよね。普通ならこの手の知りたい情報って自ら取りに行く必要がありますが、chappyさんの場合は亀戸という場所でリアルタイムにその変化を見ることができるから羨ましく感じています。そうしたら、chappyさんの作品のことについても伺おうかな。」

chappy「私の制作工程って作為的とかではなく、偶然性が強いんです。まず画面に刷毛などで線を描き始めるんですけど、いい感じの線なんて滅多に描けないから、その紙の上っ面一枚を剥がし始めたんですよ。そしたらまた白い部分が出て来るじゃないですか?そこにまた新しい線を描いたりしてそれがコラージュ作品の始まりでしたね。」

剥がし方もその時々で緩急を持たせる


PD「ほう、なるほど!結構描き進んでいく中で見えてきたアプローチという感じですね。使用している紙ってケント紙とかですか?」

chappy「いや、ザラっとした厚めの画用紙ですね。その上にクラフトテープとかを貼っていって。ちょっと描いて剥がしてっていうのを繰り返して無駄にしないようにするという。その手法でだんだんとコントロールし始めたんですよね。ここを剥いたら面白いかもしれないな?とかで作品に昇華していった感じですね。」

 

制作途中で感じる「違和感」。対処法と完成までのプロセス。

chappy「そうですね、なんかしっくり来ないな…って思ったらシンプルに放置して寝かせますね。一旦放っておいて、気が向いたら触ってみる、みたいな感じで。失敗した!と即判断して捨てるか?と言われれば、それは違って。ゼロにしてやり直すっていうよりは、別で新しい制作も始めてみて、一回手を止めていたものも捨てない。そこでまた見えてくる新しい部分があるので。これが私の対処法ですね。」

PD「次の日に見たらなんか違う!的な。発酵作業みたいで良いですね、寝かすって() そもそも制作途中に気持ち悪いなって感じたり、 chappyさんの中の違和感て、言語化できる感じですか?」

chappy「多分…言語化というよりは感覚ですね。私はギャラリーでも、外の展示でもいろんなものを見てきて、自分の好きを結構わかっていると思うんですよ。この感じ好きだな〜とか。自分の中の琴線に触れるかどうか?みたいな。」

PD「ああ、わかります。確かに他の人に比べると見てきたものの多さはありますよね。頭の中のアーカイブが多い分、触れる琴線の種類も多岐に渡る気がします。」

chappy「そう、その部分に触れるかどうかで、違和感や気持ち悪さを図っている気がしますね。」

PD「なるほど。これって自分以外の第三者がわからない部分でもありますよね。本人しか気が付けないというか?」

剥がした端材の山にもヒントがある

 

PD「実は、最近ハッとしたことがあって。アート系以外の友人が『美術館での立ち振る舞いがわからない』って言ってたんですよね。よくよく聞くと、『絵を近くで見たり、引いて見たり、その場に5分とかいたりするじゃん?』て聞かれて。でも普段そんなこと考えながら見ないじゃないですか、私たち。そういう人たちからすると、美術を目の前にした時特有の立ち振る舞いや作法が必要という認識らしいです。鑑賞の仕方にルールなんてないのに。私は割と早いんですよ、見るスピードが()

chappy「なるほど、その視点か。あ、でも私も同じです。作品を見る時、一週目とかすごく早いんですよ。そんで気になったらもう一回見に行く。石部とかはゆっくり見るタイプ。人によって色々見方がね、違いますからね。」

PD「作法なんてないから、自分が見たいように見ればいいと話しても『アートを作り出す人に失礼にならないか?』と言う不安があるらしいです。小さなギャラリーとかは気軽に入れるけど、一定の著名な作品の部類になってくると、まだまだ日本はアートを見る行為自体にPAYするような意識が強い。そこに働く"立ち振る舞い"と言う考え方も日本人らしいな、と。海外は著名な作品でもよっぽどの企画展以外、常設展はタダだから、幼稚園単位の遠足とかで来てるんですよね。美術館の使い方は図書館に近い感じ。空調効いているし(笑)」

chappy「アートってもっと気軽に誰もが楽しめるものであるべきですよね〜。」

 

素材や道具選びで意識しているポイント。

PD「制作の過程で、偶然的に剥がすみたいなところに辿り着くと、あ、ここでテープが必要だな、〇〇が必要だな、というようなことがあると思うんですが、道具の選定も重要ですよね?」

chappy「基本は家にあるものですね。『あの調味料があったから掛けて味変するか?』ぐらいの感覚で。それらで一回試してみて、上手く使えそうだなと判断したら、そのまま使う。多少、世界堂に行って探すぐらいのことはあっても、わざわざ全部を取り揃えてから描こうって言うのがあんまりなくて。元々、私の姉も美術系でパステルとかいっぱい持っていたから、そのお下がりとか集まって、何かしら道具を持っている状態でした。それを使わないと勿体無いって言う。その頃からこの感覚とか素質があったかもしれないです。」

PD「小さい頃の画材ってそんなもんですよね。買い揃える・買いに行くって言うのは最終手段として。例えば道具もキッチン用品で何とかなるかもしれない!とかね。」

 

亀戸アートセンターを始めたことで起きた、大きな変化。

京葉道路から少し路地に入ったところにある亀戸アートセンター

 


PD「作家活動はもうずっと石部さんと二人でやってきたと思うんですけど。ギャラリーをやろうかなってなった時、即断即決って感じでしたか?」

chappy20代のころは、友人たちと貸しギャラリーを借りて、自分たちで企画して、材料もその都度用意して、終わったら撤収してみたいな形で展示することが多かったんです。そういう経験もあって、自分でギャラリーをやってみたいな、という気持ちはずっとありました。亀戸の前に住んでいた一軒家にはガレージがあって、そこを作業場として使っていたんですけど、そこを見て、ギャラリーにもできるかもと思って。石部はもう少し軽い感じで、『せっかくガレージがあるし、やってみようか』という感じでした。実際に始めてみると、自分たちが作ったものをすぐ発表できるのも良かったし、いろんなアーティストに声をかけて、グループ展を組んで参加してもらったりもしました。普段だったら出会わない人たちと出会えるのも面白かったですね。ただ、その家を引っ越さなければならなくなって、次はどうするかを考えることになりました。」

PD「敢えてお家とギャラリーを分けたのは意図的に何かありますか?例えばお家の続きにあれば、前身のガレージみたいな感じでスムーズだったりするな、と。」

chappy「そうですね。次に住んだ家は石部の両親が住んでいた家で、周りが民家だったので近所の目も気になるし、あまり騒げないというか、人が集まるイベントもしにくいなと思って。展示をやるにも限界があるし、もう少し広いスペースにしたかったんです。なので、ちゃんとギャラリーとして使える場所を別で探そうと思いました。」

PD「なるほど。意図的に分けたというより、家で続けるには限界があって、今のかたちになっていったんですね。」

2blksお二人の毎回のキュレーションと、色が効いた展示

 

chappy「ギャラリーを運営する、そして展示したものを売ると言う。オンラインもそうですが、その売る作業とかも残務としてあるんでね。よっぽど海外から来て明日帰っちゃうみたいな場合はそのまま手持ちでお渡しするんですが、それ以外はほぼ配送です。だからSNSの告知やバックヤード業務が運営一本の中に集中すると大変。ただ、ありがたいことにアーティストたちが協力的でリポストしてくれたり、助けられているところもあるから、なんとか楽しくやれていますね。」

立体やぬいぐるみのアーティスト回もありバラエティ豊か

 

PD「今は有名なギャラリーとかもいろんな事情で閉業する時代ですからね。箱も大事だけど、アーティストたちとの関係性や協力体制が幾分か大事になってきましたね。あと、展示しているアーティストのことをお二人ともよくインストールされているから、フォローが上手い。ちゃんとフォローしてくださるから見に来てよかったなって思える。アーティスト本人からの作品説明はもちろんですが、なぜこの方を選んだのか?というキュレーション面を見にくる方たちもいる。そこが他のギャラリーと違って亀戸にしかない特別なことだと思っています。あと単純に亀戸ビジターの中にはchappyさんと石部さんに会いに来てる人も絶対いると思う()

chappy「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。確かに、展示しているアーティストのことは、自分たちなりにちゃんと伝えたいという気持ちはあります。自分たちもアーティストだから、作品を見せる側の気持ちもわかるというか。それに、ギャラリーを運営するようになってからは、アーティストとの関係だけじゃなくて、自分たち二人の関係性も少し変わりましたね。生活の中でも、役割をどちらか一方に寄せすぎないようになったというか 

 

展示を見るだけで終わらせない場にしたかった。

PD「亀戸の楽しみの一つって、毎回展示ごとに版が変わるシルクスクリーンのサービスだったり、アーティストのグッズ販売だったり、ドリンクバーもそうですけど、行くたびにワクワクするんですよね。こういうアクティビティも備わったギャラリーを運営する方針は当初からありましたか?」

chappy「一番最初は、シルク(スクリーン)がキッカケとしてありましたね。前身となるガレージで運営の時から、『なにか(プリントできる素材)を持ってきてくれたら刷ります!』って感じでやっていたので、それを継続した形です。シルクのサービスだけは、みんなすごく面白がってくれたので、新しく移転した場所でもやりたいなとは思っていました。うちのギャラリーは都心からも遠いし、ここでしかできないことに少し価値観を見出したくて。」

PD「確かに、わざわざ現地に来ないとできない特別なことですもんね。」

来てすぐ目に入り、帰る頃にはお財布出して買ってしまうワクワクグッズコーナー

 

chappy「グッズはですね…オープンした頃はまだ今のようなコーナーとして設置していなかったんですが、アーティストに展示をしてもらうようになると、案外、各々個人で作っているものが面白くて。そのまま紹介する意味でも始めてみたって感じですね。ドリンクバーはどちらかというと近所の人に向けてのアクションから始まったかな。なかなかアートセンターって大々的にギャラリーを開いていてもワケわかんないですからね() 覗いてもらうキッカケとして、飲み物が買えるんだ〜みたいな?ライトな感じの雰囲気を出しておけば、なんとなく気軽に寄ってくれるかなって、夏とかは特にいいじゃないですか。」

PD「本当にソレ大事!私いつも総武線の亀戸から来るから、道中歩いて来てオアシス的な() こんな面白いサービスが多種あるギャラリーさん、他で知らないですもん。こういったアクティビティが併設されているだけでも来る意味があると思っています。」

chappy「私たちも、“アートセンター”なんて勝手に名前を付けておいてアレなんですけど、あとからヨーロッパのアートセンターにはカフェが併設されていたり、展示だけじゃなく人が集まる場所として機能しているところも多いと知って。あ、じゃあ“アートセンター”でよかったんだな、と思いました。展示を見るだけじゃなくて、コーヒーを飲んだり、シルクスクリーンでプリントしたり、何かしらその場で楽しめることがある場所になったらいいなとは思っていて。シルクスクリーンイベントでは、プリントできるTシャツとかも多少は置いているんですが、やっぱりご自身の好きなアイテムを持ってきてもらえるのがいいんですよね。位置もその場で相談しながら選べて、目の前でプリントされていく感じにライブ感があって、そこが楽しいなと思っています。」

PD「例えば、亀戸ならではのサービスを動画にしてWEBとかに載せとくとかもいいかもしれませんね。こんなのをやっていますよ〜的な。お客さん体験型のアクティビティの側面はすごく魅力的だから全面に推した方が良いです!」

chappy「たしかにそれはアリかもですね!発信なども積極的にできると、運営的にはもっと良くなるなって。アーティストと協力してもう少しアピールできるといいなとは思います。」

 

来場者との印象的なやり取り・予想外だった反応。

PD「今までいろんな方が足を運ばれたと思うんですが、その中でも運営していないとわからない出来事とかありましたか?」

chappy「今までギャラリーとか美術館とかに行ったことがないお客さんが、溝渕珠能さんというアーティストの展示の時にいらっしゃって。作品に感銘を受けたようで、のちにメッセージをくださって。展示の後、帰り道の風景や目に入るものがなんだか違うように見えたって、感動していらっしゃいましたね。ほどなくして作品をオンラインで購入もしてくださりました。」

溝渕珠能さん個展(2021) 亀戸アートセンターにて

 

PD「オンラインで何でも買える時代。敢えてしっかりと現物を見た上で肌感として浸透してくる独特の圧ってあるんですよね。それってすごくいい反応だと思うんです。私もwimpさんの作品を初めて亀戸で見た時、ガツンと濃いめ青の衝撃が走って…。」

wimpさん個展(2023) 亀戸アートセンターにて

 

PD「この感覚、アーティストや作品の前情報を入れて行かない時ほど感じるヤツで、私は定期的に体験したいって思う派で。その最たるものが絵を買うという行為だと思うんですが、初見の方にほど響く気がしています。ギャラリーに来慣れていたり、元々のファンの方ほど、物理としての作品を買わない。買わずにその作品がある空間の方を楽しみに来ているのが強い気がします。」

 

2blks、生活と制作の役割分担。

PD2blksとしてのパートナーシップも伺いたいなと思います。個人としての活動と二人ユニットとして行う活動で、作家性に一貫した何かを持って制作されていますか?」

chappy「実は、2blksとして一個の作品を共同で作り上げることって滅多にないんですよね。一時期やってみたこともあったけど、合わない() なんだろう…私たちは生活も共にしているから好きなものは似ていると思うんですよ、価値観とか感覚とか。見るものやキュレーション面で、このアーティストさんいいね!と思ったら意見が合致するんですけど。じゃあ、アーティストとしてお互いの制作を一緒にできるか?と言われたらそれは少し違って。」

方向性と親和性、2blksとしての関係性と役割

 

chappy「どちらかと言うと、石部の方が自分の中の感覚を邪魔されたくないっていうのが強いんで、何事も粛々と一人で進めているのかなと思います。共同制作をする上で、自分が集中したいと思うかどうかということもありますし、もっと言えば手法的な部分の違いもありますよね。私の場合は、偶然性も一つの楽しさだと思っていて、試しながら面白さを見つけていきたいところがあるんですけど、石部はその過程で汚くしていくことがあまり好きではないんですよね()

PDchappyさんの場合、方法論として、ここに辿り着く!と言うよりは、辿り着いちゃった!っていう方な気がします。」

chappy「そうですね。私も昔、ここの場所にこの色を塗って、次はここを塗って……みたいな、ぬりえに近いやり方を試してみた時期があったんです。でも、すぐに自分には合わないなと思ってやめました。やっぱり、途中で起きるズレやトラブルも、無理に直すんじゃなくて、そのまま生かしていく方がしっくりくるんですよね。石部も以前はもう少し整えて進める方だったと思うんですが、今は少しずつ、そういう偶然や流れを取り入れるような作り方に変わってきていて。だから最近は、制作のことでぶつかることもほとんどないです。無理に一緒にひとつのものを作るというより、それぞれが自分のやり方で作れている今の状態が、一番いいのかもしれないですね。」

PD「なるほど。では制作という意味では、ユニットとしてよりも自分に合った方法で各々やる←がお互いの最適解だと気付いたんですね。一方、運営に関しては一緒にキュレーションできる関係性というか。」

chappy「逆にその部分の共通意識があるから今までもやって来られたかなっていうのはあります。別々の方向を向いていても、このアーティストが好き!って言うことだけでは共通意識。だから運営出来てんのかなとは思っています。」

PD「私はお二人のことを知っているからこそ、二人の関係性が透けて見えるんですが、規律性を保ちつつ粛々とやっている石部さんと、どちらに新しい道があるかわからないchappyさんの好奇心があるからこそ、あの亀戸の空間が構成されているんだなって。アーティストからしたら、お二人はしっかりと相談にも乗ってくれるし、変な言い方ですが、お父さんとお母さんて感じですよ、きっと。」

chappy「私の場合、設営が終わったあとも、結構すぐに次の作業のことを考えちゃうんです。キャプションを作らなきゃとか、決めることを整理しなきゃとか、運営者としてやることの方に意識が向きやすくて。それに対して石部は、設営後の余韻を少し楽しみたいというか、空間の感じをもう少し味わっていたいタイプなのかなと思います。アーティストと何気ない話をしたり、その場に残る時間も含めて楽しんでいる感じがありますね。」

PD「あ、でもそれちょっとわかります(笑)。大学時代に、大学側は早く工房を締めたいのに、学生は可能な限り制作を続けたいから、いつまでもダラダラ居るみたいな。あの感じに近いのかもしれないですね。ギャラリーによっては、オーナーさんが不在でも、アーティストの方で適当にやってください、みたいなところもあるじゃないですか。もちろん良い悪いではなく、運営上のスタンスや色が出る部分だと思うんですけど、亀戸はその場にちゃんと人がいて、アーティストのことを手厚くケアしてくれている感じがします。」

chappy「まあ、それも含めて、私は関わらない運営ってあまり楽しくないなと思っちゃうんですよね。やっぱり、ちゃんと関わることが大事というか。ただ、会期前はアーティストも制作で忙しい時期だと思うので、こちらから頻繁に連絡するのは、邪魔になっちゃうかなと思って、あまりしないようにしています。必要な確認はしつつ、毎回展示ごとにZOOMでインタビューのような時間を作って、作品のことや考えていることを聞かせてもらっています。あとは搬入や設営の時に話しながら、作品のことやアーティストの雰囲気を少しずつ知っていく感じです。そういう関わりがあるから、展示中に来場者へ作品のことを伝えやすくなるし、アーティストのこともちゃんと紹介できるようになるのかなと思います。」 

 

—作品が「生活の道具」になる。

スタジオ撮影

 

PD「そもそもchappyさんの一つの作品だったものが、FAVORRICを通して商品になり、どこかの誰かが買ってくれて家で使ってくれている。この感覚ってどんな感じですか?」

chappy「絵を買ってくれる方は私もよく知ってることも多いから特に気にはしていなかったですが、商品として昇華されると全く知らない家でお役に立てているんだな〜みたいな不思議な感覚になりますよね。」

PDchappyさんはFAVORRIC立ち上がりからのご参加。まだサービス自体も得体もしれなかった中で、私たちが色んな商品に展開していくっていう怪しげな企画を大きな器で乗ってくださりました(笑) 私たちの役割としては、やはり作品の雰囲気や思いをキープしつつ、買ってくださる方の家の雰囲気に合うように考えながらデザイン設計をするという。」

作品の細部までジャカード織りで再現されているウールブランケットは圧巻。

 

chappy「あ、あと、買ってくれた方がどんな家に住んでるんだろう?って言うのは、よく考えたりしています。」

PDchappyさんの商品を選ばれる方は比較的に男性が多いのかな?という印象。あとはカラートーンを入れない無機質なお部屋が好きな方とか。提供していただいた5種類の作品はシリーズとして捉えているから、どう組み合わせてもとても収まりがいいんです。あとは、結局アーティスト本人が欲しいか欲しくないか、ここに尽きると思うんですよね。」

ニュージーランドウールを使用したラグも

 

chappy「自分の実家とか石部の両親とかにプレゼントしたら普通に生活に馴染んで使ってくれていたから、その時が初めて実感が湧いた瞬間だったかもしれません。」

 

制作スタイルの歴史と、これからのこと。

PD「現在の制作スタイルって、過去の作品と比べてみてご自身で歴史を感じますか?あとこれからチャレンジしたい手法とかも聞きたいです。なんとなく私の中で、chappyさんて立体を作るとかのイメージがないんですが、その辺はいかがですか?」

chappy「以前は平面の作品が中心だったんですが、最近は消しゴムを削って小さい立体を作ったりもしています。平面とはまた違う面白さがあるなと思っていて。陶芸もやったことがあって、粘土の感触とか、手で形を作っていく感じが好きなんです。まだ探りながらですが、立体的な作品にも少しずつ興味があります。」

PD「いいですね〜。以前展示をされていたPOTTARIさんもそうだし、フリースタイル陶芸さんとかもそう。ここ何年かで一気に立体や陶芸を作りたい人たちが気軽に始められる場所が増えましたよね。それもすごく良い傾向だなと思います!」

 

アートを続ける理由。

chappy「そうですね。たまに自分がアートを続けていてめちゃくちゃ感動する時があるんですよね。いつもはみんなの作品を見てすごいなって思うんですけど、それとはまた別に感情を揺さぶられる時があって。すごい作品を見た時の変化は顕著で。いつもよりすごく喋るようになったりとか、感想言いまくったりとか。これも後から気付くことなんですけど、単純に面白いし、自分てこんなに喋るのか?とかもビックリしたりするんですよ。だからそういう体験を誰かにもしてもらいたい!と言う気持ちでアートの表現を続けているんだと思います。」

PD「別の言い方がわからないんですけど、第三産業みたいなところがあるじゃないですか、私たちがいる分野って。衣食住あっての(カルチャー)みたいな。他は無くなったら困るけど、アートってなくなっても直ちに困らないし、誰か死ぬというものでもない。そこなんですよね。そこの娯楽みたいなジャンルのものに訳もなく固執しているから面白いんであって。本当に好きだから続けている以外の理由がないけど、自分自身のヘルスケアというか精神衛生的な?気持ちが保たれていることってアートの中で仕事をする当事者だからだろうなって極論思ったりするんですよ。誰に褒められるわけでもなく、誰かが救ってくれるわけでもないけど、多分ずっと好きなんだろうなって感じはしますよね。」

 

最後にこの"Artist x"を通して、初めて自分の作品に触れる人たちへ。

東京の東のエリアに場所を構えるということ

 

chappy「何はともあれ、好きなように好きな方法で私の作品を見てもらえたら嬉しいです。もちろん展示会からでもいいですし、SNSからでもいいですし、FAVORRICの商品からでもいい。使ったりして、何かを感じてもらって、その人の生活に寄り添ってくれていたらいいなって思います。」

PD「シンプルでとても良いです!本当、私の周りには、『誰に気を遣うことなく、作品は自由に見てください!』って感じで寛容なアーティストが多い気がします。作品とは、どうしても作者のエゴの元にあったりするもので、それを自分の手法などを通して咀嚼して展開しているところは多少なりともある、と。そして第三者が見たとしても、作者が敷いた感情の大きな玉みたいなものって押し付けられないじゃないですか。結局、自分以外の人から見えるものはその解釈の中で昇華させて貰えばOKな気がします。chappyさんが今後FAVORRICに期待することや若手アーティストへのメッセージってありますか?」

chappy「FAVORRICさんにはいつも寄り添ってもらっているので、特に何も言うことはないんですけどね(笑) 新しい商品を私自身も楽しみにしています。あと、例えば自分の周りの限られた範囲だけで制作したり発表したりしていて、なかなか売れないなと悩んでいるアーティストもいると思うんです。でも、日本とか自分の周りだけがすべてではないですよね。別の国で展示をしたらすごく人気が出た、みたいなこともあるかもしれないし、何かしらにハマる場所や見せ方って必ずあると思うんです。私は自分自身がアーティストでもあり、ギャラリー運営者でもあるから余計に感じるんですが、やっぱり見せ方って大事だなと思います。もしかしたらFAVORRIC アーティストにとってその見せ方の新しい扉を開いてくれるような立ち位置に なるんじゃないかなって思っています。」

一つの作品から、いろんな商品展開へ

 

 PD「そう言っていただけると嬉しい限りです。私たちが目指しているところって、アクションの取り方に悩んでいたり、作品以外でも絶対輝けるだろう方たちに向けてサポートしているところもあって。一回FAVORRICを挟んで、お客さまに商品を使ってもらって、その先に作品とアーティストを知ってもらうみたいな緩衝材として動線が引けたなと思っています。キッカケを自分で作れる人はいいんですが、そうでなければそんな第三者に頼ってもいいんじゃないかなって思うんですよ。現在、参加アーティストも80名ぐらいになりましたが、愚直に関わることでアーティストたちとこれからも繋がっていたいし、誰1人として関わりを途切れさせたくないなと思うんです。なんかNO NO Girlsの時のちゃんみなみたいなこと言ってますけど() 自分としても人と関わっているという事実だったり、生きているってことの証明だったりを今の仕事でさせてもらっているかもしれないです。今日はこうやってお話できてよかったです!」

 chappy「こちらこそ、ありがとうございました!」

 

 

 

今回のArtist xの企画連動商品は、コチラ

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chappy-石部奈々美

1977年生まれ。
武蔵野美術大学短期学部グラフィックデザイン科卒業。
石部 巧、石部 奈々美 a.k.a. chappy から成るアートユニット、2blks(ツーブロックス)として、それぞれの作家活動と並行してオルタナティヴ・スペース 亀戸アートセンターを運営。
オリジナルグッズ制作やシルクスクリーンプリントの実演販売・ワークショップ、“ 似ない顔絵 unsuccessful portrait ”などの活動を行なっています。

アーティストページ→

instagram→

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Artist x(アーティストバイ)について

このコンテンツは、アーティストとFAVORRICのプロダクトデザイナーが一対一で向き合い、作品の背景にあるビジョンやカルチャー、そしてこれからのアートシーンの在り方までを深く掘り下げるジャーナルです。

アーティスト x(掛ける) FAVORRICの融合、それがArtist x(アーティストバイ)

【アートと暮らす。】というFAVORRICのコンセプトを通じ、さまざまなテーマからアートを紐解いていきます。


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