アーティストインタビュー Vol.10 岡本寿
2023/10/17
フェイバリック参加アーティストVol.10
見つけた景色との一期一会の瞬間を切り取る、FAVORRIC提供作品では、気持ちのいい鮮やか色合いの写真が魅力的なフォトグラファー、岡本寿。
岡本寿プロフィール
1968 年大阪生まれ。甲南大学法学部卒業。
現在はフリーランスフォトグラファー、雑誌、広告等で活動。
1996 年Cast Iron Gallery(NewYork)にてLes Authenticite a Paris 展を開催。
2004 年ニコンサロン(新宿) (大阪) (福岡)にてFace Of New York 展を開催。
2010 年KOBE HEART グループ展に出展。
2012 年For Your Smile311 東北震災チャリティー展に出展。
2013 年第2 回For Your Smile311 東北震災チャリティー展に出展。
<提供作品>
TSUBAKI
POPPY
黄色な壁
夜明けの気球
フォトグラファーになりたい。
小学生のときから変わらない思い。
―写真を始めたきっかけを教えてください。
岡本さん
「僕はフォトグラファーになりたいって小学生の頃から言っていました。
父親が小学2 年生ぐらいの時に、ミノルタの一眼レフを買ったんです。
一眼レフって回すとピントが合ってボケ味があるじゃないですか、それが子供ながらすごく楽しくて、フィルムは入ってないけどピントを合わせてシャッターを切ってよく遊んでいました。
中学生になったらファッション雑誌に興味が目覚め、当時若者のバイブルPOPEYE とかHOTDOG PRESS をよく見ていました。
その影響でファッション写真に憧れを持つようになったんです。
当時、最新のおしゃれな服を買うお金持ちの友達がいたのですが、彼をモデルに白黒フィルムをコンパクトカメラに詰め、港に行ったり、かっこいい景色を探したり、ロケ地にこだわって撮影していました。
そのあとDPE で現像、その写真でアルバムを作ってお披露目会するんですよ。楽しかったなあ。
高校生になったら、絶対フォトグラファーになると決めていました。」
パリで出会ったストリートの人々。
ニューヨークで出会った個性あふれる人々。
―影響を受けた人物、作品がありましたら教えてください。
岡本さん
「最初に影響を受けた写真家はアーヴィング・ペン。
高校生のときに国立国際美術館(大阪万博跡地に当時ありました)ではじめて展覧会を見て、こんなに美しい写真があるのかって驚き感動しました。
大学を卒業してからは自宅の押し入れに暗室をつくって、アーヴィング・ペンの写真集Flowers に影響を受け、ボタニカル(植物)な写真をひたすら撮っていました。
それから当時パリ在住の写真家田原桂一。
彼の作品に心底惚れていたので、会いたい!と思い、突撃パリまで会いに行ったんです。
住所も何も知らなかったので、自分の作品を名刺替わりにしてパリのギャラリーや本屋でKeiichi Tahara ってフォトグラファーの住所知りませんか?って聞いて回りました。で、ついに探し当てたんです。
教えてもらった住所に行くとKeiichi Tahara の表札、ドキドキしながら呼び鈴を押したのを覚えています。
念願叶ってお会いし、色々と写真の話で盛り上がりました。
持っていたポートフォリオ(作品)も見ていただき、酷評でしたが評価してもらえただけで心から嬉しかったです。
2 度目にパリに行ったときにはアシスタントになりたいと直訴したんですが、断られました。他にアシスタントもいらしたのでね。
でも、そのときに暗室を使っていいよって言ってもらえたんです。で、このパリで僕も何かやらねばと焦り出しました。
最初は景色ばかり撮っていたんですけど、それって誰でも撮れるじゃないですか、それじゃいかんって思うようになりました。
そこで自分が一番逃げてるもの怖がっているものは何と自問自答すると、それは『人』でした。
フランス語は全く解らない、ヨーロッパの人はかっこよく感じて畏れてしまう、そんな彼らの写真を撮っていかないと俺の未来はないと感じ出しました。
ポンデザール橋でのこと、ギターで弾き語りしている白人のミュージシャンに出会い、勇気を出して話しかけると意外と喜んで撮らせてもらえたんです、嬉しかった!
そうやってストリートのアーティストや気になった素敵な人に出会うと直接交渉し、街角でポートレートを撮り出しました。
その後、パリの人々と風景を織り交ぜたものをLes Authenticité a Paris と銘打ってニューヨークのギャラリーで発表することができたんです。」
「次の被写体はニューヨークのアーティスト。ストリートで行き当たりばったりではなくアポイントをとり、彼らの場所(アトリエやスタジオ、アパートの一室等作品が生まれてくる場所)でポートレートを撮ろうと思いつきました。
最初の1 人は知人のフォトグラファーにオーガスタスという抽象画家を紹介していただき、その旅が始りました。
撮影は作品と共に彼のアトリエで行い、お互い相性が良かったせいか非常にエキサイティングで上手くいきました。
撮影が終わると、あなたみたいな素敵な人周りにいない?って、他のアーティストを何人か紹介してもらい次に繋げていったんです。
しかし紹介だけでは足りないと思い出し、地下鉄やバーなどでクリエイティブな雰囲気を出している人には声をかけていきました。ソーホー近くのバーでのこと、4 人で飲んでいる輩がいたのですが、そのうちの1 人がいかにもな空気を出しているので、勇気を振り絞って声をかけに行きました。
先方も急に声をかけられてビックリした様子でしたが、作家やってる、novelやってるっていう返事が返ってきたんです。すかさず常に持ち歩いていたポートフォリオを見せ、撮影の意図などを説明し、アポイントを取ることができました。
そんなこんなで120 人ぐらいのアーティストを撮影することが出来ました。そして帰国後Face of New York と題しNikon Galleryで発表しました。」
人が見向きのしないモノを、いかに美しく切り取れるか。
写真家としての“筋トレ”が生んだ、Shape & Color of Nature。
―作品を創作する上で大切にされていること、思いなどを教えてください。
「一時期コロナでどこにも行けなかったので、公園とか広場に生えてる雑草とか野花ばかり撮っていました。誰もが見向きもしないようなものでも、よく見ると美しいこともある。そういうことがあるんですね。極端な話、見ようによってはかっこいいゴミとかもある訳です。人によってはどうでもいいもの、捨てるようなものでも捉え方によっては宝物になる。そんな思いで見つけた瞬間がTSUBAKI でもあるんです。
これは技術的な話なんですが、光はフラットな状態を選びました。要するに曇りや日陰を探すんです。あとは切り取り方、コンポジションです。ここが最も重要で、直感的に瞬時に決め込むんです。
見つけた景色との一期一会、見つけた瞬間にさっと。
この作業は写真家としての筋トレのようなものであり、いい鍛錬にもなると思っていました。その集大成がShape & Color of Nature です。」
自分の作品が、自分の手を離れて別の何かになる。
それが新鮮でおもしろい。
−今回のフェイバリックの取り組みで感じたことはありますか?
「こうなるともはや自分の作品じゃないっていう感覚があります。写真や絵は、空いた空間も含めて一つの画面として成立するもの、それがトリミングされてしまうと別のものになると思っています。
でもそれはそれで嫌とは思わないし、自分の作品でありながら客観的に見ています。だからトリミングはお任せし、フェイバリック流のかたちを見て楽しんでいる感じです。」
考えるよりも先に身体を動かす。
これまでも、これからも。
―これまでの活動の歴史を伺っていると、先に体が動く、あまり考えずにどん
どん行動していて、その先に本当にやりたいものが見つかってくるといったような、そんなイメージなのでしょうか?
「その通りです。テーマ在りきじゃなくて、始めてからテーマを見つける感じです。また外国に行きたいです。
自分が心から撮りたいという気持ちにさせられるっていうか、フォトジェニッ
クな人や物が多いんですよね。」
−早くまた自由に行ける世界になるといいですね。
「ほんとそうですね!」
『夜明けの気球』
マサイマラ国立公園(ケニア)
夜明け前、気球が出発の準備。
ガスバーナーの激しい音と炎の光がサバンナを活気づけていました。
『TSUBAKI』
見過ごしている美しい景色、よく見るとどこにでも落ちています。
椿のピンクと草の緑のコントラストが魅力的でした。
『POPPY』
生きる!
『黄色な壁』
ナイロビ(ケニア)
煉瓦色の大地に黄色な壁が気持ちよかった。