アーティストインタビューVol.16 村上生太郎
2022/11/24
フェイバリック参加アーティストVol.16
心地良い形と色彩の調和を追求し、色鉛筆の細かいタッチの集積を用いて静物画を中心に制作する。都内を中心に個展やグループ展で精力的に作品を発表している。
村上生太郎プロフィール
1993年 東京都生まれ
2020年 東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻 修了
第68回東京藝術大学卒業・修了作品展 メトロ文化財団賞 受賞
<提供作品>
檸檬
パパイヤ
盆栽
青のアネモネ
純粋に、色と形の気持ちよさを追求する
その過程で生まれた独特のアプローチ
―主に果物や花など静物画をお描きになっていますが、その経緯は?
「作品を描く時のベースにある動機のようなものとして、自分が持っている色だったりとか形だったりに対する感覚を表現したいというのがありまして。こういう色彩の感じ、こういう形の感じってよくないですか?っていう提案なんですね。
(以前は)それをモチーフのない状態でやっていたので、そこに限界を感じて。それで、元々みんなが知っているモチーフの形とか色をベースにして、絵を描くってことをやり始めました。」
「たとえば林檎だとしたら、この林檎はこの赤にしよう。ではその赤に、お皿は何色の柄を合わせよう?形はどうしよう?背景となる空間はどういうものを合わせよう?とかそういうことですね。」
―どのような手法で描いているのでしょうか?
「細かいハッチングという手法で描いています。塗り重ねるということではなく、一回でズズズズズーって進んでゆく感じです。
ストロークは2センチづつくらいですかね。その密度と筆圧の強さで色彩が強くなります。」
―この作風はどのようにして生まれたのですか?
「実は色鉛筆だけで描くっていうのも、前にちょっとやっていた時期がありまして。その時はすごく小さな、何か挿絵のようなもので。小さくドローイング的な感じでやっていたんです。
でも、それをこう1枚でドーンってやったらどうかなって気持ちになりまして。
小さく描くのでも塗りつぶすのが結構大変なんです、それが大きくなったらすごく大変だと思うけど、大変であればあるほど、他の人はこんなことやらないだろうというのがあるし、絵としての圧とか、強さが出るだろうと。
そんなとき、大学院の2年生の夏に、狛江の喫茶店で個展をやる機会をいただいたんです。その時に全部それでやってみようって試してみた。そうしたら、周りの人もいいじゃんって言ってくれましたし、自分的にもやりきったなというのがあったので、これを続けて今に至っています。」
―「色と形の質感と調和によって、視覚的な心地良さを鑑賞者に与えたい」というお話をされていましたが、この目指す心地良さについて、もう少し詳しく教えてください。
「もちろん人によってどういう色彩の感じや形の感じが心地良いかっていうのは違うと思います。とにかく、自分にはそういうのがあるんですね。『この色の感じはいいわー!』みたいな、うまく言えないんですけど。
『このラインの感じ気持ちいいわー!』とか、そういう感覚ですね。
それを、『そういう風に思いません?』って見てくれる人に聞いているイメージです。」
心地良いという感情と向き合い、
その中にある様々な感情のゆらめきも表現する
「その気持ち良いとか、心地良いとかっていう感情も、単純に一言で言ったとしても、色々なニュアンスが含まれていると思うんですよね。
例えば、ただ単純にかわいいとか、すごくクールとか、そういう簡単なものというより、なんか可愛らしい感じなんだけどすごく毒気みたいなものを感じるとか、一見すごく明快で単純な見え方なんだけど、すごく色々やっているとか。
すごく分かりやすく言うと、気持ち悪いとかわいいが合わさった“きもかわいい”みたいな言葉ってあるじゃないですか。そういうものに、自分的にはかなり共感する。
一見相反する要素が同居しているっていうところが、人の心を掴む魅力的なものなんじゃないかと思う部分があって。そういうところは、自分の絵の中で出したいポイントではあります。」
「選んでいるモチーフも、そういう要素があるものを選んだりします。元々そういう要素を持っているもの。たとえば、(作品にもある)パパイヤとかは中の種のところってかなり気持ち悪いと思うんですけど、そのキモさもまた良いなと。」
作品の「色と形」を再解釈する機会にもなった、
フェイバリックとの取り組み
―最初にフェイバリックから商品化のお話を受けたときの印象は?
「やっぱり元々テキスタイルに興味があったっていうところもあって、自分の作品が布ものに、プロダクトになるっていうのはすごく興味があったので、このお話をいただいた時はすごく嬉しかったです。」
「自分がこう色鉛筆でやっているっていうのは、すごく自分の作品としては重要なポイントではあるんです。でも本当に本質的な部分っていうのは、やっぱり色と形。そこが核になる部分。
色鉛筆のテクスチャーは、それにかかった時間とかも含めて絵画作品としての付加価値になっている。
一方で、フェイバリックさんとつくったブランケットなんかは、自分の色と形の感覚に、新たにニットの質感が付与されたことによって、全然新しい見え方に変わったっていう感覚があって。それがすごく面白かったです。」
「やっぱり、絵画を購入するってすごくハードルの高いこと。そんなに安いものではないし、日本は住宅環境もあって壁に穴開けられないとか、家が狭いから小さい絵だったらいいけど、サイズが大きくなってくると難しいとか。
海外では、普通に絵画をインテリアとして見ているところがありますけど。
だから日本だと特に、いいなって思ってくれたからといって、購入にまで至る人はまだ限られてくる。そうなると、どんどん自分が作っているものがハードルの高いものになっていってしまっている。
友達とかにもよく言われるんですよ、あれで洋服作ってとか、トートバッグつくってとか。
そういう意味で、幅広い層の方に楽しんでいただけるっていうことは、フェイバリックさんと取り組ませてもらっていることの、一番良い点というか、嬉しい点ですね。」
作品名:檸檬
「ギンガムチェックの布の上に、目に沁みるような摘みたての黄色。」
作品名:パパイヤ
「甘くみずみずしい果実の中にはびっしりと黒い種が潜んでいる。」
作品名:盆栽
「激しく身体をしならせ今にも踊り出しそうに枝葉を伸ばしている。」
作品名:青のアネモネ
「ピンクの壁に赤い花瓶、眩しいほど青い花弁。」