Lux2
ターナーが晩年に描いたゲーテの色彩論への回答としての作品2組は、ゲーテの色彩についての思索を解体して光と闇の色彩についてそれぞれ描いたものだ。
そこに付される逸話は大洪水と夜明け、天使と精霊に纏わるものだったが、どれも中心に光を持ち、円状に色彩を帯びる絵画であった。
これはゲーテの色相環を下敷きにしているが、光の中に舞台を作り演出したようにも見える。
光が分光され色彩に変化する様はプリズムにおいてのみならず、ゲーテやターナー自身が行ったようにそれぞれの哲学によって様々な色彩理論が作り出された。
現行のメディアである液晶ディスプレイはプリズム分光の構造を前提としており、 赤と緑と青の発光によって色彩を表現している。
それは人間の眼に適切に映るように作られた構造だが、本質的に光は白色光の構造色のみの理解では不十分といえる。
ただ、その性質を十分に理解するためには感覚を頼りにするほかなく、その上、視覚の外側に目を向けるのは難しい。
光が光らしい形を持って色彩を作り出すのだとすれば分光した状態で解体し、再構成する事で光を実際に見たときの捉えどころのなさを映し出せるのではないか。
3原色に解体された光のイメージは統合されることによって空間的な重なりを持ち、さらにそのイメージに分光したそれぞれの光を当てることで光は収束と分光の両方の状態を同時に保ちながら何色とも取れない色彩に変化する。
その表面には色材の色と光の色が同調と飽和を湛え何色でもない光本来の色彩へと還ってゆく。
光を描きとるための一つの方法としてこの作品を"Lux"と名付けたい。"Lux"とは明るさを示す単位であり、ラテン語の「光」の意である。